田舎に移住すると、都会暮らしではあまり関わることがなかった行政、中でも市町村と関わる機会が増えます。
田舎に移住してきて、普段の生活が役場とこんなに密接に関わっているなんて知らなかったわ。都会の生活では感じることがなかったわ。
道路・河川・水路などのインフラ、水道事業、消防防災、子供の教育、医療、介護予防、国民年金などの福祉、大手事業者が撤退した後のバス事業など……日常的な暮らしに関わる行政サービスだけでもたくさんあるね。
田舎暮らしを支えるたくさんの生活インフラが、実は地域の市町村の手によって支えられています。
しかし田舎の市町村は財政的に豊かでないことが多く、職員の数も限られています。
都市部ではそれぞれの業務ごとに担当職員が割り振られていることが多いです。
これに対して田舎の市町村は行政サービスの対象人数こそ少ないものの、実施しなければならない事業数は変わらないので、1人の職員が複数業務を担当していることが多いです。
よって都会だと行政がすぐにやってくれて当たり前だったことが、田舎では時間がかかったり、なかなか前に進まないことが多々あります。
私も、とある住民の方が担当の職員に「なんであなたはこんなに簡単なことができないの?」「やる気がないだけじゃないの?」と話している場面を横で見て悲しい気持ちになったことがあります。
あなたの気持ちはスッキリするかもしれませんか、それで行政サービスが本当に良くなると言えるでしょうか?
あなたの「暮らしを良くしたい」という純粋な思いを、行政が受け取れるよう正しく伝えることができたら、もっと私たちの田舎暮らしが良くなると思いませんか?
あなたの思いを行政が受け取れるよう正しく伝えるためには、問題を行政が受け取れるよう整理してから論理的に説明し、それを記録に残すことが必要です。
今回は私が行政機関を相手(国・県・市町村)に自然保護の仕事を10年以上続けてきた経験をもとに、苦情やクレームではなく正しく行政を動かす方法について伝えたいと思います。
1.行政があなたの問題を受け取れるように整理する2つのフレームワーク
2.誰でもできる、論理的に説明するための4つの接続詞
3.意見を記録に残す方法
1.行政に伝えるときにやってはいけないこと2選
①感情に訴えること
まず伝えるときのマインドの部分ですが、感情に訴えてはいけません。
いけないというより、意味がありません(エネルギーの浪費です)。
自然保護の世界でも開発の問題があった場合「あなたは美しい自然がどうでもいいと思っているんですか!」と強く行政側を責め立てる場面をたくさんみてきました。
行政の人たちは感情ではなく、法律に基づいて仕事をしています。
だから「あなたには●●の心がないんですか!?」という感情に基づく責め方は、完全に筋違いですし、逆に泣き落とされて動き始める行政は危険です。
「法律に基づき、法律に反してはいけない。」これが行政の全ての仕事の原則です。
あなたの権利や公共の利益がどんな法律に反して侵害されているのかが常に問題とされるのです。
②担当者の仕事ぶりを攻撃すること
これも地元の役場に行くとよく見かけるのですが、担当者を攻撃しても、何も生み出すことはありません。
もし仮に担当者の頑張りだけでその場をしのいでも、異動になればまた振り出しにもどってしまいます。
また担当でらちが開かないとき、すぐに「責任者を出せ。」という方もいます。
これもある意味では間違っています。
責任者と話す必要がある場合もありますが、大切なのは「誰と話すか」ではなく、組織として解決に導いてあげることです。
「なんで行政サービスを受ける住民側がそこまでしなければならないのか?」と強く疑問を抱いた方はこれから先読まないでも良いです。
行政側はただの苦情・クレームとして受け取って終わりです。
でもあなたが思っていることが本当に田舎暮らしを良くすることにつながると考えているのであれば、それを行政に正しく伝え組織として解決に導く必要があります。
それではどうしたら行政に正しく伝え、組織として解決に導けるのか、具体的な方法を解説します!
2.行政に正しく伝えるための2つのフレームワーク
行政問題を組織として解決に導くためのファーストステップは、あなたの意見を行政が受け取れる形にお色直しすることです。
次の2つのフレームワークを意識して整理してみましょう。
「誰の何が問題か」「誰がなんの立場で」です。
①「誰の何が問題か」を明確にさせる
例えば…
近所のおじさん同士の単なるイザコザの解決は、行政サービスの対象ではないことは明白、ですね。
でもこれが家庭排水の流し方に関するイザコザであれば、水質汚濁防止法に反する可能性があるので、行政が受け取れることになります。
だから行政への伝え方として、
「隣の人が変なものを流すのでとても困っている。あいつは○×△……」ではなく、
「隣の人が排水と一緒に油を流していて、私の安全な田んぼづくりに影響がある」と伝えた場合、行政が受け取れることになります。
誰のどういう権利や公共の利益が侵害されているのかを、明確にすることが大切です。
「誰の何が問題か」の整理例
市道の側溝の蓋が壊れている→住民の交通安全
学校が休校→子供の教育を受ける権利
市町村営のバスが運休→(特に交通弱者の)移動の自由を支えるインフラ
河川の護岸や道路の法面が崩壊→住民の安全
ゴミ捨て→住民の生活環境の保全と公衆衛生……etc
②「誰がなんの立場で」を明確にする
例えば、「観光地において路上駐車が多い」と言った場合、「交通安全の問題」と「観光客の満足度に影響がある」と言う2つの側面があります。
「交通安全の問題」であれば、あなたが一住民の立場として物を言ったとしても、住民の交通安全の問題として行政が受け取れます。
しかし「観光客の満足度に影響がある」と言った場合、あなたが観光事業者でなければ、行政は「この人にとって何が問題なのだろうか」と疑問に思うだけです。
行政は住民の権利が直接侵害されたり、公共の利益に直接関係する人(団体)の利益が侵害されていると認識した時に初めて意見を受け取り、解決に向けて動き出す傾向にあります。
「意見を受け取り」という書き方をしたのは、ただ聞くだけではなく解決すべき問題として認識する、と言う意味です。
「誰がなんの立場で」を明確にすることは、行政が解決に向けて動き出すべきかの判断材料を与えることにつながります。
さらにこれが一住民としての意見ではなく、組織としての意見になった場合、行政の中の解決の優先度がさらに高くなります。
上記の例で言うと、「路上駐車は観光客の満足度に影響がある」と一事業者が伝えるより、観光事業を営んでいる人たちの集まりの観光協会の意見として伝えた方が、より優先的に解決すべき問題として認識してもらえることになります。
日常生活の中での困りごとなどは、一住民として伝えることもできますが、田舎では特に「自治会」を通して意見を言うことが多くなります。
逆に日常生活の困りごとを行政に相談したときに、内容によってはまずは自治会に相談してください、と言われることがあるかもしれません。
地域の中で優先度が高い問題かどうか、話し合ってくださいねという意味でしょう。
だからこそ田舎では自治会の存在が大きいんですね。
でも実際自治会に入ると大変な部分もあります。
自治会に入るべきかどうか悩んでいる人は私の過去記事を参考にしてください。
3.誰でもできる、論理的に伝える4つの接続詞
①反対利益に配慮しよう
あなたの権利や利益が侵害されていたとしても、他の人の権利や利益・公共の利益に配慮しなければならないケースがあります。
この場合行政としては解決の優先順位をつける必要があります。
とするとあなたの問題解決の優先順位が高いことを、論理的に説明できたら良いですよね。
例えば…(私の地域で実際にあったケースだと)
雪の日にいつも町営バスが運休になり、学校が休校になる
→「バス乗車者の生命の安全」と「子供の教育を受ける権利」
温泉地の泉源地から有毒ガスが発生している
→「住民の生命の安全」と「泉源の確保」
これらを反対利益に配慮した形で論理的に伝える必要があります。
論理的って言っても、わざわざ論理的な伝え方の本を買って、熟読してから伝える!?PREP法とかよく聞くけど…
大丈夫、次に解説する4つの接続詞を使えば、誰でも論理的に伝えることができるよ!論理的に伝える方法を本を買って勉強することも大切だけど、どうしても時間がかかってしまうよね。一応僕が読んで本当によかったおすすめの本のリンクを下に挙げておくね。
②「確かに」「しかし」「また」「よって」を使いこなそう!
その4つの接続詞とは
「確かに」「しかし」「また」「よって」です!
確かに →反対利益へ配慮
しかし →必要性(あなたの権利や公共の利益を守る必要性)
また →許容性(反対利益よりもあなたの権利や公共の利益を優先しても許される理由)
よって →結論(あなたの意見)
先ほどの例の、雪の日にいつも町営バスが運休になり、学校が休校になることをこれに当てはめると…
確かに 「バス乗車者の生命の安全」は大切だ。
しかし 降雪量に関係なく一律でバスを運休させて学校を休校にしてしまうのは「子供の教育を受ける権利」を奪ってしまっている。
また バス乗車者の生命の安全は降雪量に応じた対応をとることで守ることができる。
よって 一律にバスを運休させて学校を休校にするのではなく、降雪量に応じてバスを運行し、学校を開ける対応をとってほしい。
となります。
難しいことはありません。
この4つの接続詞を頭に置くだけで、誰でも論理的に物事を整理して伝えられます!
4.記憶ではなく記録に残す重要性
口頭で行政へ意見を伝えた場合、伝えられた担当者はその場かぎりの意見(すなわち苦情・クレーム)として上司に伝えるか、担当職員が上司に報告しないかのどちらかになってしまいます。
これでは担当職員や上司の個人的な判断によって解決の優先順位を決定してしまうので、組織としての解決につながりません。
そこで行政に意見を伝える時には、メール(または文書)で意見を言うことをオススメします。
記憶ではなく記録に残すことが重要です。
メールをすすめるのは、送信日時や返信のやり取りがお互いのメールに記録されるからです。
そしてメール(または文書)の文末には「必ずこのメール(文書)にご返信ください。」と添えます。
メールの送信先は、行政機関のホームページに公表されている関係する担当部署の代表メールで良いです。
担当の方の個人メールに送ると、組織としての解決に結びつきません。
もし3で前述したように反対利益に配慮する必要がある場合には、その反対利益に関係する部署も宛先に入れて、同時に送ったことがわかるようにメールを送ります。
なぜならば行政は横断的に物事を解決するのが不得意だからです。
メールを双方の部署に送信することで、それぞれの部署で解決すべき問題として受け取り、異なる部署同士で協議を行うことにつながります。
5.解決の方法にまで配慮できたらお互いハッピー
最後はおまけの部分になりますが、解決の方法としては行政の中の誰かが犠牲になる方法でなく、仕組みとして解決に導くことが重要です。
例えば雪の日のバスの運休の例で言ったら、担当職員が毎日朝5時のバス運行前に運行ルートの安全性を確認するというのは、持続可能な方法ではありません。
もちろん行政としては解決する責任はあるのですが、それを個人の努力や根性で解決させる方法は間違っています。
上記の例で言ったら、すでに国道上に設置してあるライブカメラを利用して、客観的に●●の状況の時にバスの運休を決定する、積雪量が●cm超えたら……etc
行政には組織として問題解決に取り組んでもらい、あなたも解決に向けた知恵を出し合うことで、持続可能な仕組みによる解決へと導いてください。
あなたの田舎暮らしとそれを支える行政サービスが、持続可能な方法で改善できたら住民も行政もハッピーな関係になります。
まとめ
苦情やクレームではなく正しく行政を動かす方法は以下の通りです。
①感情に訴えたり担当者を攻撃しない
②行政が受け取れるようにお色直しをして整理して伝える
「誰の何が問題か」誰の権利や公共の利益が侵害されているか
「誰が何の立場で」それを何の立場で伝えるか、ポイントは直接的な利害関係者であること
③反対利益がある場合には反対利益に考慮する
論理的に伝える4つの接続詞「確かに」「しかし」「また」「よって」を使う
④メール(または文書)で意見をいい、関係する部署には全て送信、必ず口頭ではなくメール(または文書で)の返信を求める
⑤行政側が持続可能な仕組みとして解決に導けるアイデアを出す
田舎で暮らしていると、行政に苦情やクレームを言いたいわけじゃないんだけど、改善するために伝えなければならない場面…というのがあるわね。
この記事を参考に、住民側も行政側もお互いがハッピーになるような問題解決に導けたら本当に嬉しいな。皆さんの田舎暮らしが素晴らしいものになりますように!