国立・国定公園へ行くと、その地域の自然を紹介するビジターセンターやインフォーメーションセンターがよくあるよね。ああいうところで働いている人を見ると、うらやましいなあと思うことがあるよ。
そうだね。大自然の中で働けるメリットもあるけど、給与額が一般的に高くないというデメリットもあるよ。今回はビジターセンターで働きたいと考えている人に対して、僕の実体験(勤続10年以上)も踏まえて解説するよ!
1.ビジターセンターの仕事の内容と運営団体の違い
2.ビジターセンターの仕事のメリット3選
3.ビジターセンターの年収
4.ビジターセンターの求人を見定めるときのポイント
ビジターセンターとは
国立公園または国定公園において、自然情報(地形・地質・動植物・歴史・文化)などの情報を展示・解説し、公園の利用案内を行っている施設のことです。
主に国立公園では環境省の管理下に、国定公園では都道府県管理下にあります(都道府県から譲り受けて市町村管理下のケースもあるようです)。
名称はビジターセンターという名称を問わず、上記の情報を提供している施設をここでは「ビジターセンター」として紹介します。
「ビジターセンター」という名前がついていないが、ビジターセンターとしての機能を持っている施設の名称例
〇〇エコミュージアム、〇〇情報館、〇〇インフォーメーションセンター、〇〇フィールドハウス、世界遺産地域は〇〇世界遺産センター、その他
ビジターセンターの運営はどこが行っているか
ビジターセンターは、環境省・都道府県・市町村の管理のもとにある施設がほとんどです。
ただし環境省のビジターセンターにおいては環境省が直接運営するビジターセンターはほぼありません。
環境省及び地元の都道府県・市町村等の共同負担の下で地域協議会を設立し、地元協議会等に運営委託を行うケースが多いです。
ではビジターセンターの運営は一体どこが請け負っているのでしょうか。
一般企業が運営する場合は入札となるため、一概にどこの組織が運営していると伝えることはできませんが、環境省や各公園管理団体の年度報告書などからわかる範囲で解説します(報告書は2020年度参照)。
一般財団法人自然公園財団
1979 年に設立された「自然公園美化財団」を前身とした団体で、国立公園内の美化清掃と施設管理運営を実践的に担う団体です。
国立公園といえば、「自然公園財団」というイメージがあるほど、国立公園の施設管理の歴史が古い団体です。
全国の国立公園が34ある中で、19支部あります(2022年3月)。
主な活動としてはビジターセンターの管理運営のほか、駐車場管理(料金徴収)や公衆トイレ、園地・歩道などの清掃・維持管理業務です。
2020年度 環境省管理のビジターセンター78施設中、16施設を管理。
一般財団法人休暇村協会
1961年に国の財源と都道府県による出資により設立された団体です。
国立公園、国定公園等の利用及び保健休養のための宿泊施設を核とした事業を展開しています(全国35ヵ所)(2021年4月現在)。
休暇村に隣接してビジターセンターが設置されているところでは、ビジターセンターの管理を休暇村が受託しているケースが多くみられます。
休暇村が管理しているビジターセンターの特徴としては、早朝散策ウォーキングや星空観察会などの宿泊者を意識した自然ふれあい事業が展開されていることです。
2020年度 管理施設数不明。ただし自然公園財団に次いで多いと言われています。
地域財団、地域協議会・NPO・その他
その他の運営団体は様々ですが、当該地域に特化した地域性の高い団体がほとんどです。
団体の形態としては地域財団、地域協議会、NPO法人、地元の観光協会、地元市町村または市町村の第3セクターなどです。
地域財団で特に有名なのは、尾瀬地域を拠点とする(公財)尾瀬保護財団と、世界遺産の知床地域を拠点とする(公財)知床財団です。
特に知床財団の活動は、ビジターセンターなどの施設を拠点としながら調査・研究、自然保護の普及啓発活動等を高いレベルで実施しており、公園管理団体のトップランカーとして知られています。
ビジターセンターと一口で言っても、その運営団体は様々なのね。求人を見るときに、どこが運営先かによっても業務内容や勤務形態、待遇が変わってくることに注意が必要だね。
ビジターセンターの仕事内容
運営団体によって細かな仕事の内容は異なりますが、一般的なビジターセンターで共通する仕事内容を紹介します。
受付案内業務
国立・国定公園を訪れる人へ国立公園の見どころを案内する受付案内業務です。
電話やメールでの問い合わせ対応や、対面での公園案内を行います。
案内の内容は地域によって様々ですが、当地の公園へのアクセス方法やアクティビティ内容、動植物など季節の旬の自然情報について案内します。
旬の自然情報の収集・発信業務
自然情報の収集業務
旬の自然情報の収集業務を行います。
観察フィールドが隣接しているビジターセンターでは、日常的にそのフィールドで情報収集を行っています。
山岳地域であれば登山を行って情報収集を行う必要があります(中部山岳地域や屋久島を除けば、往復で6〜7時間の登山が求められるところが多いでしょう)。
海洋公園であれば船に乗って情報収集を行っている運営団体もあります。
自然情報の収集は、運営団体によって力の入れ方が異なります。
単に自然情報を収集するだけでなく、調査業務として実施している運営団体も存在します。
自然情報発信業務
収集した情報をビジターセンター館内の展示(写真など)で発信します。
ハンズ・オン展示など、趣向を凝らした手作り展示を作成しているビジターセンターもあります。
その他、ホームページ、SNS(Facebook、インスタグラム、ツイッター)でも自然情報の発信を行います。
自然ふれあい事業の実施
多くのビジターセンターでは自然ふれあい事業として、来館者に対して当地の自然環境のレクチャーやミニガイド、自然と親しむイベント開催などの自然解説を行っています。
教育旅行、子ども園や小中学校の総合学習、大学のゼミなどから自然解説を依頼されることもあるでしょう。
ビジターセンターでは、ガイドウォークといって短時間で身近なフィールドを解説する事業を行っていたり、館内で自然の素材(どんぐりなど)を利用した工作教室を行っているのをよく見かけるよ。自然ふれあい事業の内容は各ビジターセンターの立地や得意とすることによっても異なるよ!
ビジターセンターの仕事のメリット・デメリット
メリット
①大自然の中での仕事と生活が両立できる
国立・国定公園エリアの大自然の中で仕事と生活が両立できるのが最大のメリットです。
自然風景の美しいところで田舎暮らししたいと考えている人にとっては、オススメの仕事です。
②地域の自然・歴史・文化について詳しくなる
職業柄当然ですが、ビジターセンターで取り扱っている情報は地域の自然・歴史・文化であることから、必然的にそれらの分野に精通します。
ビジターセンターなどでアルバイトをしながら地域について学び、別途ネイチャーガイドや宿を経営している人などもいます。
③好きな自然を通して社会貢献できる
ビジターセンターの運営団体の中には自然を案内するだけでなく、様々な調査活動を通して地域全体の保護計画づくりや合意形成を担っている場合があります。
好きな自然を通して社会貢献できます。
大好きな地域の自然を後世に引き継ぐために、みんなでどのようなことをしなければならないのか。
地域全体の保護計画づくり等に携われた時などは、大きな満足感を感じられることでしょう。
デメリット
①求人が少ない&正社員募集が少ない
求人の絶対数が少なく、その中でも正社員募集が圧倒的に少ないです。
アルバイトや繁忙期のみの期間雇用の求人は毎年出ています。
自然公園財団や休暇村を除けば新卒採用はほぼなく、欠員が出たときの即戦力募集の中途採用がほとんどです。
自然系の仕事の中でも、調査コンサルタント会社を除いたビジターセンターを始めとする普及啓発系の事業所は、予算も職員数も限られており、3〜4人程度の小規模事業所であることが多いです。
そのため新人さんを一人前に育て上げるほどの組織力がないことが理由として挙げられます。
どうしても自然系の仕事につきたい人は、雇用形態(正職員・臨時職員)を問わずに、「仕事の内容」にこだわって、自分自身をアップデートすることに努めることをオススメします。
②給与額が全体的に低い
給与額が全体的に低い傾向にあります。
理由としては、指定管理者制度等により国や県などからの施設の管理費の財源が限られているためです。
具体的な年収等については次の項で説明します。
③交通が不便なところが多い
国立・国定公園地域そのものが、都市部から離れたところに設置されていることが多く、必然的にビジターセンターも公共交通機関が発達していない田舎に存在することが多いです。
よってほとんどの地域で車の運転が必須です。
特に山岳地域のビジターセンターは標高の高いところに存在することもあり(標高1000m以上)、冬場は四輪駆動でスタッドレスタイヤが必須となるため車の維持管理コストが余計にかかります。
ビジターセンターの年収
ビジターセンターの年収は運営団体の給与規定によって異なるので一概には言えません。
求人サイトなどで出ている給与額等を参考にすると、年収200〜300万程度に収まるところが多いでしょう(月給15万円〜20万円がボリュームゾーン)。
また支給形態も月給制ではなく日給月給制をとっているところがまだまだ多いです。
ただし年収300万円を超えるビジターセンターが存在するのも事実です。
活動が活発なビジターセンターの運営団体は、ビジターセンター業務との組み合わせで様々な業務を受託していることが多いです。
例えば清掃や園地・歩道管理業務、自然ふれあい業務、自然環境調査業務、登山道巡視業務、合意形成業務など…
そういった団体は仕事が多く専門性も求められる代わりに、待遇も他のビジターセンターに比べて高い傾向にあります。
給与が高いといっても、日本のサラリーマンの平均年収に届く給与が支給されるビジターセンターは、管理職を除いてあまり聞いたことはないよ。でも田舎では年収300万円あれば、贅沢しなければ基本的な生活は十分できるし、自分の人生を後世に残る自然にささげられるという価値はあるかな。仕事を決めるときに何を重視するかだね。
ビジターセンターの求人を見分けるポイント
どこが運営団体かをしっかりとリサーチする
ビジターセンターと一口でいっても、運営団体は前述した通り様々で、運営団体によって仕事の内容や勤務形態は異なります。
まずは運営団体をしっかりとリサーチしてみましょう。
運営団体の情報(年次活動報告書や団体収支(総会資料等含))をホームページにアップしている団体は、情報公開にも積極的で、活動の質が高いところが多いです。
情報発信の質と量を見極める
次に運営団体のSNSでの情報発信頻度・内容・フォロワー数などをチェックしてみましょう。
SNSを見れば具体的にどんな仕事をしているビジターセンターか、どんなことを得意としている団体かのぞき見ることができます。
(逆にSNS等での情報発信が全くないビジターセンターでは、ビジターセンターとしての機能がいまいちの可能性があります。)
SNSはFacebookを利用している団体が多いほか、最近ではインスタグラムなどを運用している団体も増えてきている印象です。
前述した通り活動が活発なビジターセンターは、運営がしっかりしており、給与も一定程度支給されているところが多いです。
どのビジターセンターで働くのか探すときのポイントは、求人内容や働くエリアにもよるけど、SNSでこまめに情報発信していたり、その内容が面白いビジターセンターは管理の質が高く仕事の内容が面白い可能性が高いよ!まずはSNSでのフォロワー数の多いビジターセンターの求人をチェックしてみよう!
実際に求人が出ている(または就職を目指している)ビジターセンターへ足を運ぶ、アルバイトでも働いてみる
特に働いてみたいビジターセンターがあった場合は、ウェブ上で情報収集するだけでなく、実際に足を運んでリサーチしてみましょう。
センターに入った時の雰囲気(ガランとしてないか)、展示の質(セロハンテープの跡だらけになっていないか、手作り展示があるか、展示内容が面白いか)、スタッフの対応(あいさつしてくれるか、気持ちの良い対応を心がけているか)など、一般的な店舗を見る時の見方と同じでOKです。
また実際に働いているスタッフの人に、仕事内容・勤務形態・仕事の大変なこと・勉強しておいた方が良いことなど、色々とたずねてみましょう。
スタッフの方も「自然に興味があってビジターセンターで働きたいと思っている」と言ってくれれば、質問をしてくれたことを嬉しく思い、色々なお話をしてくれることと思います(ただし忙しくない季節や時間帯を狙いましょう。夕方は清掃業務もあって忙しいことがあります。)
また繁忙期限定で短期アルバイトを募集しているビジターセンターもあるので、実際に働いてみるのもおすすめです。
まとめ
ビジターセンターでの仕事は、大自然の中で仕事と暮らしを両立させることができるので、自然が好きな人にとっておすすめの仕事です。
ただし運営団体によって仕事の内容や雇用形態が全く異なります。
また給与額もあまり高い職種とはいえません。
それでも大好きな自然の魅力を多くの人に伝え、また後世に自然を残していけるよう普及啓発できる仕事は他には見当たりません。
この記事がビジターセンターでの仕事を目指している人にとって参考になれば幸いです!
収入面が不安ならば、他の収入と組み合わせたり、事前にスキルを磨いておいたり、副業も検討しておいたりと、色々な働き方を前提に考えることができるね。
収入面で大変なこともあったけど、10年以上この仕事をやっているのはやはり「地域の自然に貢献できる仕事」だからかな。この記事をきっかけにビジターセンターで働きたいと思ってくれる人が増えると嬉しいな。